甲状腺とは
甲状腺は、首の前面、のどぼとけのすぐ下に位置する蝶が羽を広げたような形のホルモン分泌器官です。正常な甲状腺は柔らかく、外から触ってもどこにあるのかわからないのが普通です。検診などで触診して腫大を指摘されて初めて気づく方が多いようです。首を見ただけで腫れが確認できる場合には明らかに大きくなっています。
甲状腺の病気や症状は気づきにくいことが多いため、当院では症状や触診から甲状腺の病気を疑い発見することに力を入れています。ただし、当院では現在エコー検査を行っておらず、難しい診断や治療が必要な場合には甲状腺専門のクリニックや病院をご紹介していますのでご了承ください。
甲状腺の働き
甲状腺ホルモンは新陳代謝に関わるホルモンです。甲状腺ホルモンの分泌量が適切でないと、体の代謝が乱れ、さまざまな健康問題が引き起こされる可能性があります。
全身の代謝調整
甲状腺ホルモンは、摂取した脂肪や炭水化物などからエネルギーを作り出し、全身の細胞の新陳代謝を促進します。これにより、体を活発に動かすように働きかけます。
交感神経の活性化
甲状腺ホルモンは交感神経を刺激し、具体的には脈拍を速くするなどの作用があります。これにより、常に「小走りで体が動いているような状態(活動状態)」に体を調整します。
成長・発達の促進
甲状腺ホルモンは成長や発達にも重要な役割を果たしています。例えば、生まれつき甲状腺ホルモンが分泌されなくなる病気(クレチン病)では、適切な治療を受けなければ、その後の成長や発達に支障をきたすことがあります。
甲状腺疾患の症状
甲状腺ホルモンが過剰または不足すると、全身にさまざまな辛い症状が現れ、原因不明の体調不良や疲れが続くことがあります。
甲状腺機能に異常があるときの共通症状
- 全身倦怠感(だるさ)
- 疲れやすい
- 髪の毛が抜ける
- 甲状腺の腫れ
- むくみ(顔、全身)
- 筋力低下、筋肉の疲れ
甲状腺機能亢進(ホルモン分泌が多い)時の症状
- 暑がり
- 汗が異常に多い
- 脈拍が多く、動悸がする
- 不眠
- 微熱が続く
- 手足が震える
- イライラする
- 体にかゆみがある
- 口が渇く
- 息切れがする
- 排便の回数が増える
- 食欲亢進
- 眼球が突出する
甲状腺機能低下(ホルモン分泌が少ない)時の症状
- 寒がり
- 汗をかかない
- 脈拍数が少ない
- 普段から眠気を感じる
- 低体温
- 体重が増える
- 気力(やる気)が出ない
- 皮膚が乾燥する
- よく声が枯れる
- 物忘れしやすい
- 動作が鈍い
- 便秘
甲状腺の主な病気
甲状腺の病気では、「異常な疲労感」や「短期間での体重変動」が初期のサインとして現れることが多いです。特に女性の方は注意が必要です。
バセドウ病
この病気は若い女性に多く、甲状腺ホルモンが過剰になる病気の中でも最も代表的です。主な症状は以下の通りです。
- 動悸や脈拍の増加
- 甲状腺の腫れ
- 眼球突出(目が突出して見える)
- 手の震え
- 多汗
- 精神的なイライラ
- 不眠
- 生理不順(生理が減少する)
- 脱毛
- 食べても痩せる
- 疲れやすい
- 脱力感
橋本病(慢性甲状腺炎)
橋本病は自己免疫疾患の一つです。主な症状には以下が含まれます。
- 甲状腺の腫れ
- 体のだるさ
- 顔や足のむくみ
- 食べていないのに太る
- 記憶力の低下
- 動作やしゃべり方が遅くなる
- 意欲の低下
- 体温低下、寒さに弱い
- 耳鳴り
- 味覚の低下
- 筋肉痛
- 全身のしびれ
橋本病の平均発症年齢は50歳前後で、バセドウ病の20~30代と比較して高いです。更年期と重なることも多く、更年期障害と誤診されることがあります。
結節性甲状腺腫
甲状腺にしこりができる病気で、これを結節性甲状腺腫と呼びます。結節が小さいうちは症状がなく、自分で触っても気づきません。結節が大きくなると、周囲の人から指摘されることもありますが、検診で見つかることが多い病気です。
結節性甲状腺腫には良性と悪性があります。良性と悪性の評価は主に超音波検査(エコー)で行われ、約9割の結節は良性です。良性の場合、治療は必要ないことがほとんどです。
甲状腺がん
甲状腺がんは悪性の結節(しこり)によるもので、他のがんと比べて進行が遅いのが特徴です。悪性度の高いものもありますが、早期に手術すれば予後は良好です。痛みなどの症状がないため、検診で見つかることがほとんどです。
甲状腺の検査
甲状腺の検査では、血液検査を行いホルモン濃度や自己抗体の測定を行います。加えて、エコー検査を実施し、悪性の甲状腺腫瘍が疑われる場合には、エコー検査と同時に採取した細胞を病理検査にかけます。
※当院ではエコー検査を現在行っておりません。ホルモンの異常や甲状腺の腫大が見つかった場合には適切な専門病院またはクリニックにご紹介いたします。
甲状腺の治療
薬物療法
甲状腺機能亢進症には、甲状腺機能を抑える薬が処方され、甲状腺機能低下症には、甲状腺ホルモンを補充する薬物療法が行われます。治療には定期的な血液検査を行い、適切に投薬を調整します。
急性化膿性甲状腺炎には抗生物質、亜急性甲状腺炎には痛み止めを使用するのが一般的な治療法です。
アイソトープ治療
甲状腺機能亢進症に対する薬物療法で十分な効果が得られない場合、ヨウ素を取り込む甲状腺の特性を活用し、ヨウ素(131Iカプセル)を内服する「アイソトープ治療」が行われることがあります。アイソトープ治療は甲状腺の専門機関にて行います。
手術
悪性の甲状腺腫瘍がある場合は、部分切除または全摘出の手術が必要です。また、薬物療法で効果が得られない甲状腺機能亢進症に対しては、甲状腺を摘出する手術が選択されることがあります。手術後は甲状腺ホルモンの産生が停止するため、生涯にわたりホルモン補充が必要です。手術が必要な場合は、連携する医療機関をご紹介します。