線維筋痛症とは
線維筋痛症とは、全身に広がる慢性的な痛みや疲労感を主な症状とし、日常生活に大きな影響を及ぼす疾患です。この病気は、主に中枢神経系の異常によって痛みが過剰に感じられる「中枢過敏性」が関与していると考えられています。患者の多くは女性で、特に30~50代で発症することが多い傾向がありますが、年齢や性別に関係なく発症する可能性があります。
線維筋痛症の初期症状
線維筋痛症には、特有の初期症状はありません。症状や経過は患者ごとに異なり、決まった初期症状を挙げることは難しいです。また、現れる症状の多くは他の病気にも見られるため、他の疾患との区別が難しい場合があります。
全身の痛み
痛みは特定の部位に留まらず、全身に広がることが特徴です。痛みの程度には個人差がありますが、「鈍痛」や「焼けるような痛み」、「締めつけられるような痛み」と表現されることが多いです。痛みの部位は一定せず、日によって変化することがあり、天候やストレス、疲労によって悪化する場合もあります。また、軽い触れや圧迫でも痛みとして感じる「アロディニア」がみられることもあります。
疲労感
痛みと共に慢性的な疲労感が強く現れることが特徴です。この疲労感は、十分に休息を取っても回復しにくく、日常生活に大きな制限を与えます。特に精神的・身体的負荷がかかった後に疲労感が増す傾向があります。
集中力の低下(ブレインフォグ)
「ブレインフォグ」と呼ばれる思考がぼんやりし、集中力や記憶力が低下する症状がよく見られます。この症状は仕事や日常生活での判断力や計画力の低下を引き起こし、心理的な負担を増大させます。具体的な例として、会話の内容を忘れる、物事を効率的に進められないなどがあります。
睡眠障害
多くの患者が睡眠の質の低下を訴えます。特に「非回復性睡眠」と呼ばれる、眠りが浅く、朝起きても疲れが取れない状態が特徴です。夜間に痛みが強まり、途中で目が覚めることもあります。また、睡眠時無呼吸症候群やレストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)が併存することもあります。
線維筋痛症の原因
疼痛発症機序については、脳内の痛みシグナルの誤作動、痛み感受性の増大、筋肉細胞の過剰収縮などがいわれており、発症の要因として外傷、手術、ウイルス感染などの外的要因と、ライフイベント、経済的困窮などの生活環境の変化に伴なう精神的ストレスが挙げられています。
他覚的所見としては「特異的圧痛点」を押して診断しますが、通常の検査でも何も異常がないのも特徴です。
そのため病院を転々とすることも珍しくありません。
特に精神的ストレスは、重要な人との別れや死別、職場での異動や解雇など、生活環境の大きな変化に伴って引き起こされることがあります。原因として考えられることは、必要栄養素の欠損、腸内環境の悪化、病巣感染、潜在性感染症、酸化ストレスの亢進、有害金属の蓄積などです。
線維筋痛症の診断
1990年米国リウマチ学会分類基準


引用元:「線維筋痛症 診療ガイドライン2011」日本医事新報社
2016年改訂診断基準

引用元:「線維筋痛症 診療ガイドライン2017」日本医事新報社
線維筋痛症の治療
薬物療法
線維筋痛症の治療では、神経伝達物質のバランスを調整する薬物療法が中心的な役割を果たします。以下は、主要な薬剤とその作用機序についての詳細です。
抗うつ薬
神経系で痛みを緩和する作用を増強するとされています。
抗てんかん薬
痛みを伝える神経の興奮性を抑制し、不眠症や不安感の緩和にも効果があります。
筋弛緩薬
軽度の症状に対して効果がある場合があります。
抗不安薬
不安を軽減することにより、筋肉の緊張が和らぎ、痛みが軽減することが期待されます。
弱オピオイド系製剤
非オピオイド鎮痛薬で効果が不十分な痛みに対して用います。
漢方薬
筋痛の背景に冷えが関連していることが多いため、冷えを改善するための漢方薬が用いられることがあります。また、痛みの緩和には附子を含む漢方や、こむら返りに用いられる芍薬甘草湯なども使用されることがあります。
線維筋痛症には現在「特効薬」と呼べるものは存在せず、症状をコントロールすることが治療の主な目標となります。しかし、適切な治療を選択することで、症状の大幅な緩和が期待できるため、治療法の選定は非常に重要です。
神経ブロック、トリガーポイントブロック
痛みが強い時に補助的に行う場合があります。
栄養の補給
線維筋痛症の患者様はタンパク質、鉄、亜鉛、マグネシウム、ビタミンB群などの栄養素が不足し、自分で痛みをコントロールする治癒力が落ちていることがしばしばあります。
これらの栄養素を適切に補充することによって劇的に症状の改善する例が多くみられます。
線維筋痛症は
何科にいけばよい?
線維筋痛症の診療は、リウマチ科・内科・心療内科・ペインクリニックなどで受けることができます。精神的な要因が関与するケースも多いため、心療内科の受診が勧められることもあります。
当院では、内科と心療内科、ペインクリニックを併設しており、身体面・精神面の両側から包括的な診療が可能です。
線維筋痛症は難病?
線維筋痛症は、厚生労働省が定める「指定難病」には該当していません。ただし、自治体によっては独自に難病指定として扱われ、支援制度を設けている場合もあります。受診の際は、お住まいの地域の制度を確認しておくと安心です。